- はじめに
- 第24章 自信 ー 表にでてこないその3つの水準
- 第25章 自己高揚と「バカなやつともっとバカなやつ」の効果
- 第26章 自己制御の獲得
- 第27章 笑顔の神経科学ー教えることの基本ツール
- 第28章 社会的カメレオンであることの驚くべきメリット
- 第29章 「見えないゴリラ」、非注意性盲目、そして注目
- 第30章 すばやい思考とゆっくりとした思考ーあなたの中にいるロボットへの負債
- 第31章 IKEA効果、努力、価値づけ
はじめに
この投稿は、基本的に和訳の本を読みつつ、わかりづらい章や箇所を原著に戻って確認した内容をまとめています。自分が興味を持ったところしか取り上げていないので、網羅性を求めている方は本を手に取って是非読んでみてください!
今回は最後の第3部になります。第1部と第2部分はこちら。
読書会を開いて週に2章読むペースでも、4ヶ月かかって読み終わりました。網羅的に学習心理学に関わる内容を知ることができるので、より掘り下げたいテーマに関して参考文献などもあたりながら深めていくと良さそうに思いました。
8/1 追記
スライドも作りました
www.slideshare.net
第24章 自信 ー 表にでてこないその3つの水準
自信は以下のように、異なる3つの水準がある。
- 自尊感情(全体的に包括した感情)
- 有能感(領域単位で感じる)
- 自己効力感(具体的な課題単位で感じる)
自尊感情
自尊感情は、自分自身の価値をどのように信じているかを表す。
自尊感情を測った際に高得点を示す人は、自分は幸福で生産的だと感じている。さらに、自尊感情が学業成績や社交性、安定した精神的健康などの肯定的な性質と相関していることも示されている。
しかしながら、自尊感情の高揚は、成功した結果によってもたらされる帰結であって、それらの原因では無いことがわかった。例えば "Psychological Science in the Public Interest" の中で以下のように言及されている。
驚くべきことに、身勝手な行動、攻撃、自己陶酔、抑制の欠如といった多くの負の側面が、高い自尊感情と結びつきやすいことまで明らかになっている。
有能感
有能感は、「得意である」と感じていることで、分野ごとに自分がどれくらい上手くできると感じているかを表す。
有能感はその能力に基づく実際の成果と対応しない。他者よりも自分をよく評価してしまうことなどが原因となる。また、全体的な自尊感情が、必ずしも領域固有の有能感をもたらすわけでは無い。しかし逆は起こり得る。例えば、生徒が学校で成功すると、自尊感情の一つとして学業に関する自己概念を発達させる。
自己効力感
自己効力感は、人生で出くわす眼前の課題を上手くこなせるという自信の高さを表す。自己効力感は、自尊感情や有能感のような汎用的なものではなく、目の前にある課題に対して成功する自信のみ。
自己効力感が実際の能力に照らし合わせて妥当な評価になっているかというと、そうでは無いことがわかっている。同じくらいの能力を持つ個人の間でも、自己効力感の評価において大きな差異が見られる。挑戦し続ける人もいれば、挑戦を避け続ける人もいる。
自己効力感を左右する重要な要素は「記憶」である。次に出会う課題に対して自己効力感を感じるためには、過去に「成功」したことのあるよく似た課題に関する知識を活性化する必要がある。ここでいう「成功」した「記憶」とは、「過去によくできた」ことではなく、「この課題では自分の知識を素早く取り出せて使えた」という記憶のことを指す。知識へのアクセスのしやすさは自己効力感の鍵となる要素。
なので、「励ます」という行為は自己効力感を高めることが可能だが、過去に成功したことのある記憶を呼び起こしてあげることでより効果的になる。
自己効力感は常に現実の実力や能力と一致する必要はない。少し誇張された能力評価や自信過剰な状態は、自分に対する理想状態に一致する水準にまで技能を向上させるように人を動機づける。
教育的観点から
教育的観点から考えると、以下のことは重要である。
- 自尊感情のような、自分に対する肯定的な見方や自信は、学習における成功によってもたらされる。
- 自尊感情の基礎となる決定的な要素は自己効力感であり、自己効力感は人生で出会う課題は本質的に対処可能であるという感覚に依存する。
- 教師は、生徒が学校のカリキュラムに対処する能力に関して自信を得ることを助けるという、極めて重要な役割を担っている。
上記を達成するための教授法については原著24章末のコラム参照。
第25章 自己高揚と「バカなやつともっとバカなやつ」の効果
題名が意味わからないと思ったが英語版も「Self-enhancement and the dumb-and-dumber effect」なので大体意味があってそう。
自己高揚
自己高揚とは、人が自分の個人属性を肯定的に見なす傾向のこと。自信のあることを表に出す人は、他者から好意的に評価される。これは 自己呈示 と呼ばれる。自己呈示は人生において重要な役割を担っているので、自己高揚という現象が見られていると考えられる。
自分のことが優れていると虚栄をはっているのではなく、本当に自分は他者よりも優れていると信じているのである。このような感情は、ポジティブな出来事の記憶にアクセスしやすいことから正当化されている。具体的には、良い特性について考えたとき、それに合致するような出来事の記憶を引き出すことは容易であるということだ。
自己評価の持つ意味とは
多数の研究で得られたデータから、自己評価は客観的な指標に比べて以下のようであると示されている。
- 不十分である。
- 他者による評価よりも不正確な結果となることが多い。
例として、人は他者のIQやテスト結果を予測する方が、自分のものを予測するよりも正確であることが示されている。
このようなことにも自己高揚が関係している。人間は自分の評価をする際は自己高揚を基準として評価する。それに対して他人の場合は誇張された状態がないため、おおよそ正しい評価ができる。
自己評価の正確さは、技能領域における正確なフィードバックが利用可能かどうかに関連している。性格で客観的なフィードバックが容易に利用可能な領域においてのみ、自己評価は客観的なデータに収束し始める。
バカなやつともっとバカなやつ効果
能力を欠いた人は、自分がいかに能力を持たないかを知るための基盤を持たない。例えば、クラスの下位に位置する学生たちは、自分が平均よりも成績が悪いことに気づかず、成績を20%も過大評価した。
この効果は有能でない人に限ったことではない。課題が取り組む人にとって非常に難しい場合には、認知負荷が高まり判断力が失われるので、より一般的に起こりうる。例えばテストの時に上手く回答できなかった場合、「正解したかはわからないが、努力した上で頑張って回答した」という感覚が反映される。
自己イメージを正しく持つための教師の役割
人生において自分の立ち位置を正解に知ることは、生徒全員が取り組まなければならない重要な課題の一つである。確かなフィードバック情報が非常に重要だと生徒に理解してもらうことは、以下の理由から重要である。
- 誰もが引き起こしている自己高揚の効果を抑制するために。
- 個人が感じる自己価値を傲慢なものにしな`いために。
適切なフィードバックがなければ、個人の自我の構築は利己主義に委ねられてしまうだろう。
第26章 自己制御の獲得
満足遅延耐性と自己制御
幼い時に強い我慢能力を発達することに失敗した人は、のちの人生において自己制御の問題に直面することになりやすい。ここでは、目先の報酬を我慢することでより将来の報酬を得る能力のことを 満足遅延耐性 と呼ぶ。
マシュマロの実験では、高満足遅延耐性を持つ子供たちは目の前の報酬から自分自身の注意を逸らす方法を工夫していた。また、低満足遅延耐性を持つ子供たちは、年を経るごとにしばしば行動上に問題があると報告された。
他にも、自己制御の能力が高い人々は、一般的に社会的に成功していることが報告されている。自己制御できる人は、他者を理解するために努力するという適応のプロセスを通して、対人関係を改善していくことが見出された。
自我消耗
自己制御に関連の深い概念として、自我消耗 がある。自我消耗は、要求された課題に最大限注意を向けることによって引き起こされ、消耗後の課題に対するエネルギーや自己制御を著しく低下させる(例:美味しそうな食べ物を食べないように言われると、些細な批判を受けただけでより攻撃的になる)。衝動を抑えるために必要なエネルギーが、もう残っていないためだ。
自己制御能力の活用と発達
- 自己制御ができる人ほど、衝動をコントロールする必要がありそうな状況を避けようとしている。
- 衝動を制御するのに関係するスキルと方略は、社会モデリングを通して子供たちに教えることができる。
- 逆に捉えるならば、家族間の経験を通してモデル化され、伝達されることも多い。それにより、ギャンブルの習慣や薬物乱用などといった行為も伝達していくことが多くの研究によって意示されている。
- 気晴らしや注意を逸らすことによって、自分の衝動に満ちた思考を落ち着けることができる。
- If-then 方略も有効である。これは、誘惑にさらされた際にどのように行動するか事前に考えておくこと。誘惑に抵抗できる効果が非常に高い。
備考
『スタンフォードの自分を変える教室』で言及されている「意志力」について知っていると、より理解がしやすいと感じた。
第27章 笑顔の神経科学ー教えることの基本ツール
対面授業において、笑顔は最も強力なツールの一つである。
笑顔は他者といる時に生じる社会的なシグナルである。人は単独ではほとんど笑っていない。笑顔は伝染効果が強力であるということもわかっている。笑いは個人的な反応ではなく、社会的なつながりを確立したり確認したりすることを意図した表現なのである。
また、無意識に発生したわずかな笑顔を、見た人は知覚することができる。教師はこれを手がかりとして、生徒からのフィードバック情報として笑顔を用いている。生徒の顔は彼らの理解レベルについて重要な手がかりを与えてくれるのだ。生徒もまた、教師の笑顔を必ず読み取る。生徒に笑いかけることによって、教師がその生徒を一人の人間として尊重していることを示すことができる。笑顔を抑制することが適切な場合もあり、例えば生徒の悪行について笑顔になったりすることは避けなければならない。
第28章 社会的カメレオンであることの驚くべきメリット
姿勢のマッチング とは、動作や姿勢などの多くの面で集団参加者間で一貫していることを指す。集団がうまく行っている時、そのメンバーの行動が伝染していく。逆に、無意識の姿勢マッチングが生じた後に、好意や信頼感といったものが続いているかもしれないと明らかになっている。
カメレオン効果 とは姿勢マッチングの一種で、人々が近くにいる時、当事者が誰もそのことに気づかずに、ある程度の模倣が生じるという事実を指す。良い関係性であればあるほど模倣がより行われるし、友人を作ろうとしている際は相手を熱心に模倣している。このようなカメレオン効果に代表されるような自動的な模倣に関する研究により、人間は「他者と交わり、うまくやっていこうとする、暗黙的な目標」を持っているということが示唆される。
カメレオン効果のようなものは、ミラーニューロンによって行われていると考えられる。ミラーニューロン理論とは、人間を観察している時、その人を神経学的に鏡映していることを表す。このメカニズムが、人間における協力的な社会スキルの発達を可能にさせたと推測されている。
教授場面においては、前の章でも述べたように、教師の個人的なジェスチャーが生徒の脳にとって非常に重要であると示されている。ミラーニューロン理論を踏まえると、ジェスチャーは単に情報の流れを助けているだけではなく、伝達されるべき情報そのものを伝達していると捉えることができる。
第29章 「見えないゴリラ」、非注意性盲目、そして注目
非注意性盲目(inattentional blindness, IB) は、知覚失明の概念の一つで、実際に目の前で起こっているにも関わらず、一過性の失明であるかのような状態に陥ることである。一つの中心課題に向けば向くほど、別の側面に対して注意が散漫になる。昔の研究では、ストレスのかかる課題に集中している時、0.5秒ほど、実験参加者は正面に誰が座っているか一瞬見えなくなってしまうことがわかっている。
IBを有名にしたのが、「見えないゴリラ」の実験である。この実験の概要は以下の通りである。
- 被験者は、映像を見て、バスケットボールが何回パスされるかを数えることを命じられる。
- 映像の途中で、ゴリラの格好をした人が入ってきて、胸を叩いたりする。
- 30秒の映像のうち9秒間もゴリラが画面に現れていたが、実験参加者の42%しかそのことに気づかなかった。
このIBは、聴覚にも適用されることがわかっている。従って、誰かが明瞭に話していても、他のことで心がいっぱいになっていると、何もインプットされてこないのである。授業の時も、生徒が他のことで心に負荷がかかっていると、聞いているように見えても、教師の伝えたいことを全く伝えられていないことが発生する。
第30章 すばやい思考とゆっくりとした思考ーあなたの中にいるロボットへの負債
- すばやい思考とは「システム1」とも呼ばれ、実際の行動基準を通して、どのような処理が相応しいか瞬時に判断するシステムのこと。
- ゆっくりとした思考とは「システム2」とも呼ばれ、言語と明確な意図を持って整理された思考システムのこと。
人生の発達途上にある時、衝動性を押さえたり、システム2を起動させて用いたり、懸命に自制心をはっきしたりする能力は、非常に重要な素養である。教育は、個々の生徒に合うレベルで機能するシステム2を作り直すことを伴う営みである。
備考
これも、『スタンフォードの自分を変える教室』で言及されている。
第31章 IKEA効果、努力、価値づけ
IKEA効果 とは、人は自分の作ったものに愛情を抱くということである。自分でモノを作ることに伴う隠された効果とは、その成果物に対して行われる客観的で正当な評価以上に、作り手は価値があると信じてしまうのである。努力は自動的に価値付与の構成要素となる。
生徒が宿題を完成させ、それを提出した時はいつでも、同じような効果が発生していることを心に留めとくべきである。生徒が宿題に対して投入している努力を理解することは、教師にとっても重要で、生徒は教師からのフィードバックで自分の努力が認められることを求めている。
似て非なるものに 授かり効果 というものがある。これは、所有しているものに対して、客観的に妥当とされる以上の価値づけがなされることに起因する。
IKEA効果は、価値ある目標を達成したり、成果物を完成させたりすることに対する努力に由来する。授かり効果は、成果物に対する所有権に由来する。教室内でこうした努力を理解するには、何がどのように達成されているのかを、時間をかけてじっくり観察し、真摯に正しく評価することが大事である。